

『島の灯りを守るために』 – 七島信用組合×おてつたびが始めた「人手不足」に対する新たな一歩
南北1000kmにわたって広がる自然豊かな東京諸島。海に隔てられているからこそ、豊かな自然とともに、島ごとに異なる文化や暮らしが育まれてきました。しかしその一方で、人口減少と高齢化、そしてそれに伴う深刻な人手不足が、地域産業の存続を揺るがしています。
こうした課題に向き合い、島の未来を見据えて立ち上がったのが、東京島しょ地域の金融機関・七島信用組合と、「お手伝い(短期アルバイト)」と「旅」を組み合わせたマッチングサービスを展開するおてつたびです。島の事業者と島外の人材をつなぐ新たな取り組みとして、両者の提携がスタートしました。
今回は、島しょ地域のこれからに向けて歩み出した両者に、それぞれの視点から想いを伺いました。

七島信用組合 常務理事 営業店支援部長|杉本 秀之さん(右)、株式会社おてつたび 地域サポート|尾花 理絵さん(左)

七島信用組合
七島信用組合は島嶼の金融機関として、伊豆諸島および小笠原諸島への金融サービスを通じた地域経済の活性化や、都内営業エリア在住の島嶼出身者への金融サービスの提供を目指して地域貢献に取り組んでいます。
WEBサイト:shichitou.shinkumi.co.jp

株式会社おてつたび
「お手伝い(短期アルバイト)」と「旅」を組み合わせた人材マッチングサービスです。人手不足に悩む地域事業者と、働きながら旅を楽しみたい方をマッチングしています。
おてつたびを通じて、旅人は働き手として地域へ入り込み、人や地域の魅力に触れることで、現地の人手不足解消と同時に地域のファン(関係人口)創出に寄与します。
WEBサイト:otetsutabi.com
金融を超えて、地域の現場に寄り添うという決意
長年にわたり島しょ地域の経済活動を支えてきた七島信用組合。近年は金融サービスだけでは島しょ地域の未来を支えきれないとの危機感から、新たに地域事業者の課題解決を目的とした部署を立ち上げ、金融の枠を超えた支援にも力を入れ始めていました。

杉本さん「どの島に行っても、人材不足の声が多く聞かれました。外国人の就労や、これまでの経験や人脈を島のために活かしてくれる、引退後のベテラン人材の紹介なども試みましたが、どこも正社員での採用が難しい中、柔軟に働ける仕組みが必要だと感じていたんです。そんな時、『おてつたび』を他地域の信用金庫が連携されていることを知り、関心を持ちました。」
そんな中、2024年度におてつたびが東京都のスタートアップ支援事業「TOKYO ISLANDHOOD with STARTUPS」に採択され、七島信用組合との接点が生まれることとなります。

尾花さん「他の事例を見ても、人口減少の影響を受けやすい地域こそ、おてつたびのサービスが役立つのではという仮説が社内にありました。そんな中で『TOKYO ISLANDHOOD with STARTUPS』の情報を見つけ、すぐに応募したんです。
スタートアップが単独で島しょ地域の事業者と関係性を築くのは難しいので、すでに信頼を築いている島々のキーパーソンを通じて、事業者さんをご紹介いただけたのは本当にありがたかったです。また、事業が始まってすぐに七島信用組合さんからお声がけいただけたことも、とても嬉しかったですね。」
人手不足に立ち向かう新たな選択肢
2025年4月15日、島しょ地域の人手不足という共通課題に向き合うべく、両者は提携をスタートしました。まずは職員向けの説明会を実施し、その後、各島で事業者向けに説明会も行ったといいます。
杉本さん「この提携で一番期待しているのは、夏などの繁忙期に起こる人手不足による“機会損失”を防ぐことです。三宅島では事業者向けの説明会を企画し、尾花さんにも現地にご同行いただきました。
すでに事業者さんから問い合わせが来ているとも聞きましたが、実際どうですか?」
尾花さん「はい、おかげさまで、提携のプレスリリースを出してから、小笠原の宿や新島のゲストハウスなど、すでに3つの事業者さんからこの夏の人手不足対策としてご相談をいただいています。
おてつたびの利用は、宿泊業や農業が約4割を占めていますが、最近では飲食店や地域のお祭りなどでの活用も広がってきているんですよ。」

杉本さん「最近では、東京の島々でもお祭りが続けられなくなってきている、という話をちらほら聞くようになりましたよね。」
尾花さんも、島々を訪ねるなかで、そうした地域の変化や声を実際に耳にしているといいます。
尾花さん「私も昨年からいろいろな島の事業者さんとお話をしたのですが、特に印象に残っているエピソードが2つあります。
ひとつは、三宅島の商工会の方が『蓋を開けてみたら、すでに廃業寸前まで追い込まれていたというケースも少なくない』とおっしゃっていたこと。実際に現地の方々とお話をする中で、島内の事業者による人手不足への対応には、大きな“グラデーション”があると感じました。
SNSを活用して積極的に人を集めている方もいれば、毎年求人を出しても人が集まらない、あるいは何も対策を打てていないという方もいます。どうすればいいのかわからず困っている方にとって、「おてつたび」が新しい選択肢のひとつになれば嬉しいなと思っています。
もうひとつは、八丈島の方から『島の灯りをどうやって守っていくか』というお話を聞いたことです。一度消えてしまった“地域の灯り”をもう一度灯すのは本当に難しい。だからこそ、今ある灯りをどう維持していけるかが、地域の活力を保つうえでとても大切なんだと学びました。」
「観光以上、移住未満」の新しい関係人口づくりへ
今回の提携は、島しょ地域が抱える人手不足の解消にとどまらず、島と外からの人材をつなぐ新たな仕組みづくりへの挑戦でもあります。
観光や短期アルバイトを超えて、地域との継続的な接点を築いていく“関係人口”の創出へ。おてつたびと七島信用組合は、それぞれの立場から、この新しい関わり方を東京の島々で形にしようと動き始めています。

尾花さん「まずは、東京の全島で『おてつたび』を受け入れられる環境を整えたいと考えています。そのうえで、参加者が島しょ地域を巡りながらおてつたびを体験できるような仕組みをつくりたいですね。実際に、山形県では温泉街と農業などを組み合わせて、地域内を巡る事例があったりします。
参加者にとっては交通費を抑えながら島々を旅できるというメリットがあり、島にとってもお金が地域内で循環したり、事業者同士のつながりが生まれたりと、良い効果が期待できると思っています。
将来的には、おてつたびを通じてファンがファンを呼ぶようなコミュニティを島でも育てていけたら嬉しいです。」
杉本さん「現状、各島だけで物事を完結させるのが難しくなってきていると感じています。我々、七島信用組合は6つの島に店舗を構え、東京諸島全域を営業エリアとしている金融機関です。だからこそ、これからは島と島とをつなぐ役目を担っていきたいと考えています。
たとえすぐに私たちのビジネスに直結しなくても、事業者の皆さんが前向きに取り組みを進めていく中で、いつか『頼りたい』と思っていただける存在になれたら嬉しいです。地域の事業者にとって、“何かあったときにまず相談したくなるパートナー”であり続けたいと思っています。」

人口減少や高齢化、人手不足といった課題に直面している私たちの島々。
こうした現実を悲観的に捉えるのではなく、島同士が手を取り合い、外からのソリューションも柔軟に取り入れていくことが、これからの島の未来を切りひらく大きな一歩になるのだと、今回の対談を通じて強く感じました。
そして、連携の原動力となるのは「互いのリスペクト」と「対話」。島の事業者の想いに日々寄り添い続けてきた七島信用組合と、“お手伝い”を通じて全国の地域と人をつなぐ仕組みを育んできたおてつたび。
互いの立場や知見を尊重し合う姿勢があったからこそ、今回の提携が実現し、島の可能性が少しずつ動き出しています。この取り組みが未来への一歩となり、東京の島々に新しい風と循環が生まれていくことを願っています。
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