事業承継を支える仕組みは、どうして動き出したのか―連携を前に進めた「翻訳」の力

 2026/04/23

近年、全国の地方で語られるようになった「事業承継」という言葉。

少子高齢化による人口減少に加えて、進学や就職を機に生まれ育った土地を離れた若者が、そのまま都市部で社会人となり、地域に戻るタイミングを失っていく。そうした人の流れのなかで、後継者が見つからないまま廃業に追い込まれる事業者が増えています。

長く地域に根ざしてきたお店や会社が一つ、また一つと姿を消していく。
そんな光景は、もはやどこの地域でも他人事ではなくなっています。

そして、この流れは東京の島々においても例外ではありません。 人やモノが限られている島では、ひとつひとつの事業が担う役割も大きく、なくなることは、暮らしの一部が欠けるような出来事でもあります。ただ、その影響の大きさに気づくのは、たいてい後になってからです。

「あそこがなくなると困るよね」と話しながらも、ではどうすればよかったのかには、うまく答えられない。続けてほしいという想いはあっても、それを誰が、どう引き継ぐのか。その答えだけが、ぽっかりと残されてしまうことも少なくありません。

そうしたなかで、株式会社ライトライトは、第三者に事業を引き継ぐ「第三者承継」という選択肢を提案し、事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」を展開しています。

東京の島々でもその可能性を探ろうと、2024年には大島町、七島信用組合、大島町商工会との連携が始まりました。

では、この連携はどのようにして動き出したのでしょうか。

そのはじまりをたどるため、ライトライトの松田さんと、当時大島町産業課で連携を推進していた幡野さんにお話を伺いました。

スタートアップと島、その距離のはじまり

ライトライトと東京の島々をつないだのは、東京都の事業「TOKYO ISLANDHOOD with STARTUPS」(※1)でした。

(※1)東京の島々を舞台に、魅力向上や地域課題の解決に向けて、スタートアップや個人事業主等による島しょエリアでのビジネス展開を支援するプログラムです。

—— 最初にこの話を聞いたとき、率直にどんな印象を持ちましたか。

幡野さん:「正直、スタートアップが何をする人たちなのか、イメージがついていませんでした。町として創業支援には関わってきましたが、外部のスタートアップ企業と一緒に取り組む機会はなかったので、どう形になるのか、未知数でしたね。」

大島町では、2018年に「産業競争力強化法」に基づく創業支援等事業計画が国の認定を受けており、大島町商工会、七島信用組合、東京都商工会連合会と連携して、ワンストップ相談窓口の設置や、経営・財務・人材育成・販路開拓の4分野にわたる個別相談指導を行ってきました。島内の創業者を、地域の関係機関が足並みを揃えて支えていく仕組みは、すでに整えられていたのです。

ただ、これまで支援の対象としてきたのは、あくまで「島の中から立ち上がる創業者」でした。島外のスタートアップ企業と、同じテーブルで何かをつくっていく。そうした経験は、町にとっても初めてのことだったといいます。

—— 一方で、ライトライトさんとしては、なぜ島というフィールドに可能性を感じたのでしょうか。

松田さん:「事業承継の支援を行う中で、沖縄県伊江島などの離島でもマッチングが成立している事例を見て、離島にも同じような課題があるのではないかと感じていました。
ちょうどその頃、会社としても自治体との連携を強化していきたいタイミングでもあり、このプログラムは新たな機会になるのではと考え、応募しました。

また、私たちのようなスタートアップが単独で地域に入るよりも、自治体が旗を上げて町として事業承継に取り組む姿勢を示していただくことで、住民の方への届き方や安心感は大きく変わります。その意味でも、自治体や金融機関と直接関わることができる今回の事業は、とても魅力的でした。」

「みんな隠したがる」事業承継のリアル

—— 実際、島の中では事業承継の話を、みなさんどのように受け止めているのでしょうか。

幡野さん:「一番大きいのは、やはり表に出しづらいということです。島は住民同士の距離が近く、誰もが顔なじみという環境ですから、『あそこの店はやめるらしい』といった話が広まると、お客さまとの取引や、従業員の方の不安にもつながりかねません。

だから、できるだけ表立って相談するのではなく、信頼できる限られた相手にだけ、水面下で話を進めることが多かったです。」

松田さん:「後継者がいないと声に出せない、というのは実は他の地域でも多く見られます。。自分の事業を子どもが継いでくれないと思われるのが嫌だったり、金融機関や従業員への影響を気にされたりして、オープンにできない方が多いんですよね。」

島の課題に、ようやく届いた選択肢

TOKYO ISLANDHOOD with STARTUPSは、2023年度から2025年度までの3年間、東京諸島の有人11島を3つのエリアに分け、年度ごとに対象エリアを変えながら進められた事業です。

ライトライトが採択されたのは、大島・利島・新島・式根島・神津島を対象とした2023年度。採択企業は行政や関係機関に向けてプレゼンテーションを行い、地域との接点をつくる機会が設けられていました。

ライトライトもその場で事業の説明を行い、その後、大島町役場や七島信用組合、商工会を訪ねながら、個別に説明を重ねていったといいます。

ライトライトが展開するrelayの特徴は、「オープンネーム」という手法にあります。
これまで事業承継のマッチングは、情報漏洩やそれによる風評被害を防ぐために事業者名を伏せて進められるのが一般的でした。しかしオープンネームは、事業者の名前や店舗を公開した上で後継者を募集する仕組みです。

名前を出すことで、その事業に共感した人や、地域に関心を持つ人との出会いが生まれやすくなる一方で、事業者にとってはハードルにもなりかねない。そのバランスをどう考えるかが、島での展開においても焦点となっていきました。

—— プレゼンテーションの後、どのように進んでいったのでしょうか。

松田さん:「私たちのサービスは、事業者の名前を公開した上で後継者を募集する『オープンネーム』という手法を取っています。最初のプレゼンテーションの段階では、島では難しいのではないか、という慎重な反応もありました。

ただ、大島町や商工会、七島信用組合の方々と個別にお話ししていく中で、その印象は大きく変わりました。

全体の場では慎重だったものの、個別に話すと皆さんの中にある課題意識が強く、『これはやるべきだ』『大島モデルとして形にできるのではないか』と思えたのは、大きかったですね。」

幡野さん:「当初は、本当に実現できるのかという空気もあったと思います。

ただ、大島町と商工会、七島信用組合では、創業や事業承継に関する情報交換を行う会議を長年続けてきた土台があり、その中でも課題意識は共有されていました。

お店が閉まってしまうなかで、何もできないことにモヤモヤしていたこともあって、気づけば『これはやるべきだ』という流れに変わっていったんです。」

松田さん:「関係者の皆さんが強く後押ししてくださり、プレゼンの翌日には町長との面会が決まりました。

私は代表の代理で参加していたのですが、想像以上のスピードで話が進み、『ここまで一気に進むのか』と、正直驚きもありました。

ただ、この機会を逃したら次はないかもしれない、という意識もあって、その日のうちに町長への説明に向けた企画書をまとめました。

翌日の面会には、商工会や七島信用組合のお二人、幡野さんにも同席していただき、『一緒に進めていこう』という空気をつくっていただけたのが印象的でした。

町長も非常に前向きで、その場で今年度中にアンケートや特設ページを開設しようという話になり、一気に具体化したのを覚えています。」

事業承継が島の中で課題になっているという認識があったとしても、それだけで新しい連携が動き出すわけではありません。

実際に流れが変わったのは、ライトライトの提案が、地域の関係者それぞれが日頃から感じていた「このままではいけない」という実感と、具体的に結びついたときでした。

店が閉まっていくことへの危機感、相談先がないまま時間だけが過ぎていくもどかしさ、何か手を打ちたくても方法が見えなかった現状。

そうした想いに対して、「このやり方なら動けるかもしれない」と思える形で示されたことが、連携を前に進めるきっかけになっていきました。

地域の中で翻訳してくれる存在

—— プレゼンの翌日に町長面会まで決まったのは、かなり印象的です。何が、この動きを後押ししたのでしょうか。

幡野さん:「やはり、商工会や七島信用組合、町での連携がもともとあったことが大きいと思います。
普段から情報共有をしている関係性があったので、『これは必要だよね』という共通認識を持ちやすかったですね。」

松田さん:「私たちだけで進めようとしていたら、ここまでスムーズにはいかなかったと思います。
関係者の皆さんが、私たちの取り組みを地域の文脈に合わせて“翻訳”し、適切な相手に届けてくださったことが大きかったと感じています。僕らが直接アプローチしようと思っても、絶対に伝わらなかったはずです。」

幡野さん:「島に限らず、地域に根ざした取り組みでは、外から来たものをそのまま受け取るのが難しいこともあります。暮らしと直結しているからこそ、慎重になるのは自然なことだと思うんです。そういう中で、 間に入って伝える人がいることで、受け取り方が大きく変わったのだと思います。」

少しずつ動き始めた、島の中の変化

そして、2024年2月、大島町は事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」に特設ページを開設しました。現在も大島町、大島町商工会、七島信用組合、ライトライトが連携し、島の事業承継に向けた取り組みを進めています。

—— その後、実際の取り組みはどのように進んでいったのでしょうか。

幡野さん:「まずは商工会の会員さんに向けてアンケートを行いました。名前を出して第三者に引き継ぐオープンネームという方法に、どれくらい関心を持つ方がいるのかを知るためです。

正直、どんな反応があるのか不安もありました。でも、まったく関心がないわけではなかったんです。『やっぱり、考えている方はいらっしゃるんだな』と感じました。」

松田さん:「意外と、第三者に引き継ぐこと自体に、極端なハードルがあるわけではないんですよね。
事業承継は隠すものだというのは、支援する側が思いがちなだけで、事業者さんは単純にオープンにする方法を知らないだけだったりするんです。

引き続き周知していけば、いずれ活用してくれる人が出てくるだろうという手応えはありました。」

幡野さん:「町としても、とにかくまずは1個、事例を作ろうと動いていました。すぐには形にならないだろうと予想していましたが、アンケートをきっかけに具体的な相談へつながり、やっと今、実際の事例が出てきたんです。」

松田さん:「いま大島では、後継者を募集している事業者がすでに2件あり、検討中の方もいくつかあります。
もちろん、条件面の調整でハードルもありますが、『いい人と繋がる機会が多い方がいい』と前向きに捉えてくださる方もいらっしゃいます。

時間はかかるかもしれません。でも、この島でもきっとやっていける。その実感はありますね。」

この取り組みの背景にあったのは、外から入って来た提案を、島の中で受け取れる言葉へとつなぎ直す人たちの存在でした。

大島町や大島町商工会、七島信用組合など、日頃から島の事業者と向き合っている人たちが、「新しいサービス」としてではなく、「島のこれからに関わる話」として意味をつなぎ直していく。

その“翻訳”があったからこそ、少し遠くに見えていた仕組みが、島の中で現実の選択肢として動き始めていきました。

そして、その土台にあったのは、お互いの歩み寄りです。
仕組みだけではなく、顔を合わせ、言葉を交わし、関係を育てていく。

そうした積み重ねが、この取り組みを前に進めて行ったのだと思います。

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