点ではなく、「関係が育つ半径」で考える
— 福江島で見えた“つながりのつくり方”を、利島村の未来に重ねて考えてみる —
人口減少や産業の衰退といった、いわゆる“右肩下がり”の動きは、多くの地域にとって避けがたい前提になりつつあります。だからこそ問いは、「どうやって増やすか」だけではなく、「どうやって続けるか」へ移っているのだと思います。同時にもう一つ、「何を手放し、何を残すのか」という取捨選択の視点も避けて通れません。限られた人手や時間、資源の中で、地域が大切にしたい価値や営みを見極め直すことが、結果として“続く形”をつくることにつながっていくからです。
移住者数や観光客数といった分かりやすい指標も重要ですが、地域が持続していくために本当に必要なのは、人が地域と関わり続けられる状態、言い換えれば、自分らしさを保ったまま、無理なく全体に関われる関係のあり方なのではないでしょうか。そんな仮説を携え、利島村(としまむら)の移住・定住促進に向けた事業の検討に向けて、長崎県・五島列島の福江島を視察しました。
「場」が人を呼び、「人」が次の場を生む —— sotonomaで見えた連鎖
今回の視察をコーディネートいただいた草草社の有川智子さんとは、2014年11月に商工会の視察で福江島を訪れた際に「sotonoma」でお会いして以来、11年ぶりの再会でした。当時から、地域のコミュニティスペースとしてさまざまな人が出入りする素敵な場所だと感じていましたが、今回も店内にはさまざまな人が集い、みんなが親しそうに言葉を交わしている光景が印象的でした。

今回の視察をコーディネートいただいた草草社の有川智子さん
その輪の中にいた一人が、現在「sotonoma」の運営を担う桑田隆介さんです。さらにお話を伺うと、桑田さんは福江島中心街のデザインホテル「hotel sou」、放課後児童クラブ「おうとうのいえ」、移住者向けの小規模集合住宅「本山ヒルズ」の運営にも携わる、地域における重要な担い手でもありました。けれど、そんな桑田さんも、そもそもは「sotonoma」をきっかけに福江島と関わるようになったのだそうです。ひとつの“場”が、ひとりの人生の流れを変え、やがて地域の未来を支える存在へつながっていく、その連鎖を目の当たりにした気がしました。

地域の子どもたちの居場所となる放課後児童クラブ「おうとうのいえ」と同敷地内に建つ「本山ヒルズ」は移住者の定住も見据えた住まいの受け皿となっている
そして今回、訪問した場所の多くに、有川さんが何らかの形で関わっていました。そこから伝わってきたのは、「地域を面白くしたい」「暮らしやすい場所にしたい」という想いを原動力に、自分ごととして地域と向き合いながら、自分らしい表現で取り組んでいる姿勢です。


有川さんが立ち上げた福江島の暮らしを“おすそ分け”する宿「菜を(写真上)」。隣には1日1組限定の「菜をのむこう(写真下)」が建ち並ぶ
さらに、訪れた場所の多くで建築家がデザインに関わっていたことも印象的でした。関わる人々の気配や地域の風景、その土地の歴史・文化、そしてこれからの行方までを丁寧に感じ取り、場や建物のデザインとして形にしていくことで、土地の魅力が何倍にも高まり、「この地域にしか生まれない空気」が立ち上がっている。土地の力と時間、そこに重なる人の想いを丁寧に紡ぎ、場をデザインする力が組み合わさることで、豊かなコミュニティを生み、呼び込む場所が生まれている。今回の視察を通じて、そんな確信が残りました。

「おうとうのいえ(手前)」と「本山ヒルズ(奥の二階建ての建物)」。子供達が利用する学童保育施設と移住者向けの小規模集合住宅を併設した場づくりが評価され2020年にグッドデザイン賞を受賞している。
ここで見えたのは、特定の“すごい人”が地域を動かすという物語ではありません。むしろ、場が人を引き寄せ、引き寄せられた人が次の場を支え、次の挑戦が生まれていくという、ゆるやかで持続的な循環でした。重要なのは、誰かが“全体の都合”に従わされるのではなく、それぞれが自分の動機で関わり続けられる余白があることです。その余白が、結果として地域の厚みになっているように感じました。
拠点は違っても、根っこは一本につながっている —— 「共存と調和」という手触り
桑田さんのお話を聞いていると、関わっている拠点はそれぞれ性格が違うのに、なぜか一本の線でつながって見えてきました。その鍵になっていたのが、hotel souのコンセプトにも通じる「共存と調和」という感覚です。


福江中心部のデザインホテル(商店街エリア)。建築家の谷尻誠さんと吉田愛さん率いる建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEが設計を担当
hotel souが掲げるのは、壊すか残すか、人工か自然か、といった二択ではなく、その“間”にある魅力を丁寧に引き出すこと。白黒をつけず、どちらかを排除せず、両方を抱えながら、その土地らしい佇まいへと編み直していく姿勢が感じられました。

同じことは、おうとうのいえの立ち上げの構想にも通じます。障害のある人/ない人、若者/高齢者といった区分で分け隔てるのではなく、誰もが自然に混ざり合いながら暮らせるまちを根本に据えているという話は、まさに「共存と調和」を“暮らしの仕組み”として実装しようとする試みだと思いました。

「sotonoma」は地域にひらかれ、様々な人を受け入れるコミュニティカフェ
拠点は違っても、目指しているのは、誰もが住みやすく、豊かに、楽しく暮らせる地域です。その思想が、hotel sou、おうとうのいえ、本山ヒルズといった複数の場所の背景に通奏低音のように流れていて、だからこそ個々の取り組みが点で終わらず、島の中で線になっていく——桑田さんの関わり方から、そんな輪郭が浮かび上がってきました。

五島市役所 地域振興部 地域協働課にお伺いして市の移住定住施策についてお話を伺いました
この「共存と調和」は、デザインの話に留まりません。関係のあり方として見ると、福江島で目にしたのは、誰かが中心に吸い上げられる一体感ではなく、それぞれが独自性を保ちながら、必要な部分でつながり合う状態でした。つまり「まとまる」のではなく、「接続できる」のだと思います。その接続が日常の中で何度も起きるからこそ、地域が持続的に育っていくのだと感じました。
利島村に重ねるなら、拠点は「機能の集合」ではなく「関係の装置」になる
利島村では、2026年4月のオープンに向けて新たな拠点が準備されています。名称は、マルチコミュニティスペース「まごとえんがわ」です。母屋は「やまがわ」、遊び場は「うみがわ」と名付けられました。

島民からの投票により複合型サテライトオフィスの名称が決定。利島村で全戸配布されているIP端末より配信・周知した
ここで大切なのは、「どんな機能が入るか」を先に確定させること以上に、この場所がどんな“状態”を保ち続けるかなのだと感じています。福江島で見えたのは、施設の機能の足し算ではなく、それぞれが自分の動機のまま関われて、必要な部分でゆるやかに接続できる状態が、日常の導線として埋め込まれていることでした。

島の南部地域にあたる富江地区に建つ私設図書館「さんごさん」は様々な方から寄贈された“人生の3冊”が設置され、本を媒介にしたコミュニケーションが生まれる場になっている
「まごとえんがわ」もまた、コワーキング、観光案内、キッチン、相談窓口、子どもの室内遊び場といった要素を“並べる”だけではなく、利用目的や立場の違う人たちが同じ空気の中で自然に居合わせられる余白をつくり、その余白を保つことが重要になります。そうした設計が、地域の持続性の土台になるのではないでしょうか。
だから利島村でも、複合型サテライトオフィスは「何を提供するか」以上に、「どんな状態を生むか」で設計されるべきなのだと思います。たとえば、次のような状態です。
- 目的が違う人が、同じ時間帯・同じ空気の中で自然に居合わせられること
- “関わり方の強度”が選べること(ふらっと/もう少し/じっくり)
- 誰かの正解に従うのではなく、それぞれの動機が尊重されること
- その結果として、点が線になり、線が半径になっていくこと
こうした状態が、地域の持続性をつくる土台になります。
人口300人規模の利島村では、住宅確保が難しいという現実があります。平坦地が少なく建てられる場所が限られ、地道な空き家把握や整理、マッチングが不可欠になります。だからこそ、拠点の役割は「すべてを解決する」ことではなく、関係の起点をつくり、気にかけ合う回路を保ち、つながりが育つ余白を守ることにあるのではないでしょうか。福江島の学びは、その“余白の設計”が地域の力になることを教えてくれました。
ゆるやかな接続が、地域を続かせる
福江島の視察で持ち帰った最大の手応えは、地域の持続性は制度や施設の整備だけでなく、「自分らしさを保ったまま関われる状態」が日常の中で繰り返し立ち上がることで育っていく、という実感でした。
場が人を呼び、人が次の場を支え、そこからまた新しい取り組みが生まれていく。福江島では、その循環が“特別な出来事”ではなく、暮らしの半径として編み込まれているように感じました。

富江地区を散策する視察メンバー
では利島村では、2026年4月にオープンするマルチコミュニティスペース「まごとえんがわ」が、どんな余白を守り、どんな接続を生み、どんな関わり方を許容していけるのでしょうか。地域での活動に正解はなく、問いはいつも更新され続けます。だからこそ、「まごとえんがわ」を“機能”ではなく“状態”として捉え直し、問いを手放さずに運用していくこと自体が、利島村の未来を耕す営みになるのかもしれません。
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