「島で生きること」を選んだ人たちの話。——東京諸島・地域おこし協力隊、有楽町に集う
近い将来、島に移住したい人、島で働くことを考えている人、まだ漠然とした憧れを持つ人——さまざまな思いを抱えた参加者が、2026年3月8日の夜、有楽町のふるさと回帰支援センターに集まりました。
東京都心から最短約1時間半。行政区分としては東京でありながら、多くの人にとってはまだ遠い存在である東京諸島。その島々で「地域おこし協力隊」として暮らし、働く人たちが、この夜、壇上に立ちました。
定員20名を超える申し込みがあり、会場は満員。大島・利島・八丈島、3つの島から現役隊員とOBあわせて6名が登壇し、島で暮らし、働くリアルを語りました。
そしてこの夜、島々をつなぐ「東京諸島地域おこし協力隊ネットワーク」が、初めて産声を上げました。

── 第1部 トークイベント ──
東京から最も近い島、伊豆大島から
イベントの冒頭、「東京諸島地域おこし協力隊ネットワーク」代表の神田さんから、地域おこし協力隊という制度の概要が紹介されました。総務省が推進するこの制度は、都市部から地方へ移住し、1〜3年の任期のなかで地域活動に取り組みながら定住を目指すというもの。観光PR、移住定住支援、文化保全、地域イベントの企画など、活動の幅は島によってさまざまです。2026年3月現在、東京諸島では大島・利島・新島・三宅島・八丈島の5島に合計16名が活動しています。

最初に紹介されたのは、東京から最も近い島・伊豆大島です。活火山・三原山の噴火によって形成された独特の地形を持つこの島に、神田さんは2020年に移住。農業振興担当として3年間、農産物直売所「ぶらっとハウス」で活動しました。任期満了後は独立し、ゲストハウスやシェアハウスの運営、伊豆大島ジオパーク認定ジオガイドとしての活動など、自分の仕事をつくり島での暮らしを続けています。
この日は現役隊員の野中さんが、島内イベント「かめりあマラソン」と重なり欠席となりましたが、神田さんが代わりに島の魅力と現在の活動を紹介しました。野中さんは現在、大島町役場で観光・イベント業務を担当しながら、自作キャラクター「いずっち」を使ったSNSや漫画での発信にも個人として取り組んでいます。

300人の島だからこそ生まれる、顔の見えるコミュニティ
利島からは、移住定住担当の石井さんと小抜さんの2名が登壇しました。
人口約300人、面積4.04㎢。東京諸島のなかでも式根島に次いで2番目に小さなこの島は、コンビニもスーパーもなく、買い物は農協か個人商店、あるいはネット通販が頼りです。島の約8割を椿林が覆い、その椿産業が古くから文化として根づいています。一方で、20〜40代の移住者が8割を超えるという、島としては異色の人口構成を持つ場所でもあります。

小抜さんは、利島へ移住してから感じた変化をこう語りました。「300人の島なので、名前がわかる関係性の中で暮らせる安心感を感じました。人のことを職業名ではなく、〇〇さんと名前で呼ぶんです。都会から移住してきて、興味深いことの一つでした」。

石井さんもまた、面接のために初めて島を訪れたときの記憶を鮮明に持っています。「役場の方や民宿の女将さん、釣り人など、たくさんの方と話しましたが、今でも誰とどんな会話をしたか覚えています。一人ひとりと目を見て会話している感覚があり、ここなら都会にはない人との関係を築けそうだと直感しました」。

小さな島だからこそ生まれる、濃密で穏やかな人間関係。二人の活動も、島民の暮らしに寄り添う形で続いています。地域行事の実行委員やボランティアへの参加、2025年4月にスタートした村民参加型のコミュニティポータルサイト「ずっとしま」の運営など、島の人々と支え合いながら動いています。また2026年4月には、マルチコミュニティスペース「まごとえんがわ」のオープンも控えており、石井さんと小抜さんもスタッフとして関わる予定です。
自分らしく働く。それが、島の力になる
八丈島からは、「八盛隊(はちもりたい)」の愛称で知られる地域おこし協力隊のメンバー3名が登壇しました。
トークの口火を切ったのは、移住定住担当の松本さんによるクイズ。「今ここ有楽町から、八丈島までどれくらいかかると思いますか?」——会場から「11時間」という声が上がるなか、答えは飛行機で約1時間半。この数字に、会場からは驚きの声が上がりました。

島はコンパクトで、中心部からほとんどの場所へ車で5〜15分。松本さんが八丈島の暮らしで特に魅力として挙げたのが、海です。「僕は釣りが好きで、イシガキダイやアカハタといった高級魚が数百円のアサリで釣れたりするんです。八盛隊の中にも、釣りをするために移住してきたという人もいるくらい、海は本当に魅力的です」。

広報担当の佐藤さんは、島内を巡りながら植物や動物を取材し、観光プロモーションや広報誌、SNS発信を担っています。「私のおすすめは、八丈フルーツレモンです。皮まで食べられる特産品で、とても美味しいんです。それから、絹織物の黄八丈も八丈島を代表する文化の一つです」と、黄八丈の名刺入れを手に語ってくれました。

エコツーリズム担当の土田さんは、観光協会や地元のガイドと連携しながら、島の自然資源をどのように観光に活かし地域へ還元できるかを探っています。八盛隊はフレックス制を採用し、町営温泉の利活用、台風被害を受けた地区の復興推進、地域防災、再生可能エネルギーなど、それぞれが異なるミッションを持って活動しています。
── 第2部 座談会・個別相談会 ──
島暮らしのリアルを、直接聞く
第2部では、グループに分かれての座談会と個別相談会が行われました。トークイベントで気になったことを登壇者に直接問える時間です。

座談会には「東京多摩島しょ移住定住相談窓口」の相談員・柳沢さんも加わりました。柳沢さんはこれまで多くの移住相談に携わってきた経験を持ちながら、自身も新島に15年間暮らしていたという人物。制度や数字の話だけでなく、暮らしのリアルな手触りを持った言葉に、参加者たちは真剣に耳を傾けていました。
寄せられた質問は、仕事の内容や給与・待遇といった具体的なものから、「将来的に移住するためにはどうすればいいか」という長期的な問いまでさまざまでした。島外へ出る頻度や交通費、住まいの環境など、移住を現実として考え始めた人だからこそ生まれる問いが、次々と隊員たちのもとへ届きました。

島という選択肢が、暮らしの本質を照らし出す
地域おこし協力隊という制度は、島で働くための一つの入口に過ぎません。ただ、この夜に語られたのは制度の話だけではありませんでした。300人の島で名前を呼び合う暮らし、初めて訪れた日に交わした会話を今も覚えているという感覚、自分らしさをミッションに変えて島と向き合う人たち——それぞれの言葉の奥に、場所と人の間に生まれる、静かで確かな関係性が見えていました。

「東京諸島地域おこし協力隊ネットワーク」の発足は、そうした個々の選択が、島を越えてつながり始めたことを意味しています。東京諸島では今後も各島で協力隊の募集が予定されています。島で働くという選択肢を、少しでも具体的に考えてみたい方は、ぜひ一度、島の人の話を聞きに行くところから始めてみてください。

『東京諸島の移住定住トークイベント&相談会「地域おこし協力隊に聞く!あなたは何しに東京の島へ!?」』
開催日:2026年3月8日(日) 17:30~19:30
会場:東京交通会館8階ふるさと回帰支援センター・東京(東京・有楽町)セミナールームC
主催:東京都 / 東京諸島地域おこし協力隊ネットワーク共催: 公益社団法人 ふるさと回帰・移住交流推進機構
Let's Share
この記事をシェアするRelated articles
関連記事
やっちゃえ!とはじめた私たちの地方創生
東京諸島において、少子高齢化による人口の減少や産業の衰退はもはや避けられない状況の中、空き家を活用した移住・定住促進事業や創業支援事業は早急に取り組むべき重要な・・・
2022/01/23
島の可能性をひろげる
都内唯一の完全放牧豚、伊豆大島初のブランド豚を誕生させようと奮闘するひとりの島民のプロジェクトをご紹介します。離島が抱える課題と可能性、島の恵まれたフィールドを・・・
2022/01/05