刺激的越境と余白のチカラ

 2022/05/23

ゴールデンウィーク前半、4月30日と5月1日の2日間にわたって大島の南部地区にあたる波浮港周辺を会場に、音楽やワークショップ、そして飲食や洋服の販売など個性的な出店が集まるとともに、地域の青年団による催し物や波浮港周辺のお店からもイベント開催日限定の商品を販売するなど、地域一帯で楽しんだイベント『山とうみのサミット』が開催されました。

このイベントの注目すべき点は、主に長野県佐久穂町という大島から遠く離れた地域に暮らす方々がイベントの主催メンバーとして企画から関わり、イベント開催日には大島に来島して出店者としてイベントに参加された点です。

今回はそんな地域をまたいだ交流イベント『山とうみのサミット』を企画・開催した大島側の中心人物であるお二人に、イベントを企画するに至った経緯や実施することで見えてきた気づきなどを中心にお話を伺いました。

まずはお二人についてご紹介します。

青山光一さん
元小学校教諭、現在は伊豆大島でレモン農園と探究学習をベースとした個人塾を営む一方で、約20年にわたる教員時代の経験を活かし、長野県にある日本初のイエナプランスクール・大日向小学校の立ち上げから関わる。個別最適化を目指した自由進度学習、PBL、イエナプランのワールドオリエンテーション等を通した現場発の教育改革に取り組む実践者。大島と長野の2拠点生活中。

吉本浩二さん
伊豆大島波浮港出身、2019年3月にゲストハウス「青とサイダー」を開業。2019年9月に発生した台風19号によってゲストハウスの屋根が全て吹き飛ぶ被害に遭い、事業スタート後わずか半年で継続不能に陥る事態に。さらに隣に建つ明治から続く商店「高林商店」も大きな被害を受けて廃業に追い込まれる中、自身のゲストハウスと高林商店の再生に着手、ゲストハウス事業を復活させるとともに、高林商店を引き継ぎ5代目店主も務める。現在はゲストハウスと商店を営みながら、さらなるイノベーションを誘発すべく活動を行う。

実際に足を運ぶことで見えてくる景色

-まずは今回のイベントを企画した経緯を教えてください

青山さん:数年前より長野県大日向小学校の立ち上げやカリキュラムマネージャーとして長野県佐久穂町に毎週行くようになり、大島と長野の二拠点生活になりました。佐久穂町での滞在を通じて感じていたのが、町の観光に対する考え方や移住者の受け入れ姿勢など、いわゆる町おこしへの取り組みがとてもオープンで柔軟なところでした。そして、この雰囲気やマインドを大島の人たちにも伝えられないものだろうかと考えるようになりました。

そんな中、2019年の春に大日向小学校がスタートして1年ぐらい経った頃、大日向小学校に通う生徒の保護者をはじめ、学校に関わる人たちの個性的な活動が見えてきました。そんな町に関わる方たちの動きを通じてまちが生き生きと活性化していく様子が感じられたんです。

具体的には、空き店舗が目立っていた東町商店街を中心にドーナツ屋さんやカレー屋さん、シルバーアクセサリーのお店、そして古本屋さんなど、お店のオーナーの経験やライフスタイルを個性的な表現でお店に落とし込んでいて、ワクワクするような動きが各所で起こっていました。行政もそんな自発的なコミュニティを大切に考えていて、「コミュニティ創生戦略」を掲げて積極的にバックアップをしています。これは大島の仲間にもぜひ知って欲しい動きだなと思って、普段からよく話す機会のあった吉本君に見に来ないかと軽く声をかけてみたんです。大抵は声をかけてもなかなか調整が難しかったりして行けないものですが、吉本君は本当に来ちゃった(笑)。

吉本君が佐久穂町に来た日に、ちょうど個性的な事業をされている面白い人たちとの飲み会の席があって吉本君も同席しました。そこで一気に佐久穂町のメンバーに出会えたのがとても大きかったですね。

吉本さん:青山さんからは大日向小学校という新しい教育に取り組む施設が地域に生まれたのをきっかけに移住してくる人が増えていると聞いていました。大島が抱える1番の課題が移住・定住だと思っていたので、何かヒントを得たいと思ったのと、田舎が持つ共通課題について他の地域の方々が日々どのように感じているのか伺ってみたいなと思い、実際に足を運んでみたんです。

想いが冷めないうちに動く

佐久穂町の方々からお話を伺っていく中で見えてきたのが、「地元の人と移住者とのパワーバランス」でした。

地元の方はそれまで地域を守り築いてきたという自負があるし、移住者は新たな地で楽しく暮らしていきたいという想いがある。そんな想いに対する比重だったりベクトルが異なっていたりして、双方の想いがどこかですれ違ってしまうことってよくある話じゃないですか。実際、お話を伺っていたらそんな話になって。大島と共有できそうなポイントがなんとなく一致したんです。これまで地元を守ってきた人と、ある日突然入ってくる移住者との接点だったり気持ちのズレから生じる問題は大島に限った話ではないんだなとちょっと安心したのと同時に、異なる地域に暮らすからこそ一緒に共有して考えていけそうな話題だなとも思えたのです。

-共有していくための手段が“イベント”…というわけですか!?

吉本さん:はい(笑)。

とにかく現地に来ないことには始まらないと思ったのが大きいですね。普通に「来てよ」と言ってもきっと来ないですから(私は来ちゃいましたけど笑)、だったらイベントを開催することを宣言しちゃって日程も決めることで強制的に大島に来る状況をつくりだしてしまおうって思いました(笑)。そして、その日はじめてお会いした佐久穂町の皆さんに向けていきなり提案してみたら、みんなノリノリ!(笑)だったけれども、飲み会の場でしたし、その時はまさか本気でやろうとは思っていなかっただろうなと思います。

この熱は冷ましたくないという思いで、大島に戻ってからは月に1回くらいのペースでオンラインで打ち合わせを重ねていきました。月に1回のペースにしたのは程よく、熱くなりすぎず、冷めすぎず、ぐらいのペースがちょうどよいかなと思って。

他の地域で見つけた個性が紡ぐ新たな魅力

もう一つイベントをやりたいなと思った理由は、佐久穂町の東町商店街は空き店舗が目立ちましたが、その中に面白いお店が点在していたのがとても印象的でした。個性的な新しいお店の佇まいと、シャッターが下りて営業していない店舗の昔ながらのお店の看板の組み合わせが新鮮でした。そんな特徴的な風景がなんだか面白くて印象に残ってる。「お店がたくさん開いて賑わっていなくても、何か起こりそうな予感がする個性的な地域はつくっていけるんだな」って、新しい発見でしたね。そんな雰囲気を波浮港にも採り入れていけたら無理なく面白くできそうだと思って。そのきっかけとしてまずはイベントにつなげたいと思いました。

そんな佐久穂町の商店街から着想を得て、サーキット型という波浮のエリア内に会場を点在させるという今回のイベントの形式も思いつきました。もちろん、パンデミックが完全に収束しきっていないという状況もあるので、密集を避けることも意識しました。

青山さん:高林商店のある上の山地区と港周辺の風情ある街並みが階段で繋がっている波浮港地区のエリア構成はとても面白いですよね。波浮港のように風情があってギュッとしているエリアって個性あるお店が集積しやすい状況を生み出しやすいので可能性あるなと思います。

-今回のイベントを準備していく中で課題に感じたことや困ったことはありましたか?

吉本さん:やっぱり長野との距離感ですかね。
実際にお会いしたのは青山さんにお声がけ頂き佐久穂町を訪れた1度きりでしたので、オンライン上でコミュニケーションを重ねていても本音が見えないところがあって、実際のところはどのように感じているのかなぁ、と不安になりながら進めていました。

青山:そうなんだ(笑)。私はその後もリアルに長野の皆さんと顔を合わせる機会があって、みんなとても楽しみにしているのを見ていたので、全然気にならなかったです。それはちゃんと伝えてあげればよかったなぁ、仕切っていた方は大変だったんだね(笑)。

吉本:そうですよ!言ってくださいよー(笑)

探究的マインドが生まれるきっかけ

ーイベント当日は長野から総勢9名の方々が来島されましたね。地域間の交流って自治体や団体が中心となって行うことが多いと思うのですが、今回のように個人ベースの民間が中心となって行うケースってあまり見かけないですよね。

青山さん:それぞれ暮らす地域の環境の違いが大きいのもお互いが興味を持つ上で大きかったのではないかと思いますね。実際、日本で一番海から離れた駅として知られる駅(海瀬(かいぜ)駅)が佐久穂町にあるのだけど、それはつまり東町商店街も海からかなり離れた商店街であることを示しているわけで、そんな地域に暮らす人たちが海に囲まれた離島に来て交流を図りつつ地域のイベントに参加するのは面白いですよね。私は教育に関わる立場上、教育的視点で物事をみる癖があるのですが、まさに探究的マインドが生まれる前提である“刺激的な越境体験”が起こっていたのも興味深いポイントです。

吉本さん:イベントでレモネードを販売した長野組のご家族は青山さんの農園で育ったレモンを使ってレモネードを提供されていて、店長は小学2年生になったばかりの娘さんが担当で、両親はアルバイトという立場なんですよ。年齢なんて関係なくて同等に見ている。娘さんの判断や考えに対して否定的な意見や指示は一切せず、お互い尊重しつつ接しているのがよく分かったんです。その関係性がとても素敵だったし、なかなかできることではないなと思いました。

ー面白いですね。それは青山さんが関わる大日向小学校の建学の精神にも繋がりますよね。

青山さん:そうですね。大日向小学校では、子どもの自立を目指していて、大人が手や口を出し過ぎず、でも決して自由放任ではなく、サポートはするけれども一人の人格として接することを大切にしています。大人による過度な介入をしないで、子どもの主体性を引き出すことに重きを置いています。そんな考え方のベースとなっているのがイエナプラン教育です。

イエナプラン教育は、教える側と教わる側という関係性よりも、ともに生きる共同体をつくっていく、という考えのもとに動いていて、子どもたちを異年齢のグループに分けてクラスを編成して、子どもたち一人ひとりを尊重しながら自律と共生を育てていくことを重視しています。

ーなるほど。イエナプランについてはまた別の機会に詳しくお話伺ってみたいです。ところで、実際にイベントをやってみていかがでした?

吉本さん:大変なことも多かったのですが、本当にやってよかったです。出店がメインとなる2日目の5月1日はあいにくの天気で、最後は土砂降りになってしまいましたが、そんな悪天候すらまったく気にならないくらい素敵な雰囲気に溢れていた気がします。

ーそうですね。本当に良い空気感に満ちていました。地域の活性化やコミュニティを考えるときは大抵、自らが関わるエリア限定で考えがちなのですが、今回のように異なる地域に共通点を見出しながら、違った視点も感じつつ、効果的に作用し合える関係性を考えてみることって大切な視点ですよね。それをイベントという形で実現(実験)したのがおもしろいなぁと思いました。

吉本さん:そうなんです。今回の経験をきっかけに今後は佐久穂町に限らず、様々な地域と交流を目的とした交換イベントを実施していきたいなと思っています。その前にまずは来年、僕たちが佐久穂町にお邪魔して佐久穂町でイベントを開催することが最大目標ですね。それが実現できないと交換&交流イベントにはなりませんから(笑)。

新たな旅のカタチ

ー今のお話にもありましたが、今後の展開について伺いたいです。

吉本さん:はい、来年は佐久穂町で開催します!その先は他の地域とも開催できたらと思っています。地域は広がりますが個々の負担は大きくならないように、関わる人たちが主体的に楽しめるものにしていきたいですね。

青山さん:今回に関して言えば、長野側は全く負担に感じていなかったと思います。みんな旅行気分で来ていたし、通常の旅行よりも地域の人と深く関われる。本当に主体的に楽しんでいました。温泉に行ったり、お酒を飲んだり、みんなでいい時間を過ごしていました。
これって新しい旅のカタチだなと思いました。商品が売れなくても全然問題なし(笑)。関われたことが楽しい!そんなツアーイベントでしたね。

イベントを成功させよう!とか、たくさん売ろう!というスタンスではなく、自分たちが楽しもう!というスタンス。普通に他の地域に行って、自分の技術を活かしたブースを出店するのってかなりハードルが高いと思いますが、今回のようなそれぞれの地域がつながって交流イベントにすることで可能になりますよね。

ー波浮港にも最近面白い個性的な事業を始める方が増えてきましたが、当然そういった方々は普段同じ地域で商売をされているわけですが、全く別の地域に行って普段とは異なる客層や文化のなかで自分の商品を販売する体験ができるのはとてもエキサイティングだし、貴重な経験にもなりますよね。まさに“刺激的な越境体験”ですね!地域づくりのひとつのモデルケースにも出来そうです。

吉本さん:毎年同じ地域だと年一回主催をしなければならないけど、二拠点になると2年に一回で済む。関わる地域が増えるほど負担なくできるのも良い。普通に旅行に行くよりも楽しめちゃうしね。お互いの継続的な情報交換もできる。今のところは良い事ばかり思い浮かんじゃう(笑)。

余白から生まれる面白さ

ー最後にお二人が思う東京諸島で大切にしていきたいモノゴトを教えてください。

吉本さん:おこがましい言い方になってしまいますが、波浮港のイノベーションがマジで起こっていると思っています。大抵は移住者の方が新しいことをはじめたりするものですが、最近は地元の方も入って活動をはじめているし、さらには年配の方もはじめているんです。多様で理想的な動きが起こってきているなと感じています。これは伺った限りでは佐久穂町でも起こっていない動きです。様々な立場の人が活動できていて、お互いの情報を共有しつつ程よい距離感で活動ができるのは素晴らしいことだと思っています。この動きを一つのモデルケースとして継続・発展させていきたいなと思っています。

青山さん:立場上、教育的文脈になってしまいますが、100年単位ぐらいで考えていくと、この島が持続可能に発展していくためには、次の世代や子育て世代のマインドが緩やかなペースでもいいから変わっていくことが大切だと思っています。イノベーションが起こる前には、それぞれの人の心の中のマインドセットが変わる瞬間があって、それは普段の日常生活が続く中では起こりにくいですよね。探究と似ているけど、最初に越境体験があって何かしらの刺激に満ちた知的好奇心を掻き立てられるものが必要だと思っています。今回のようなイベントもそんな流れから生まれたもの。これからも面白い動きが波浮港をはじめ様々なエリアでどんどん起こってきて欲しいなと思っています。

先ほど吉本君のお話にも登場した長野側で中心的に動いてくれたレモネードの山口さんとも話していたのですが、島の中では触れる機会の少ない一流のアートや音楽といった文化的なジャンルに触れたり、眠っている感性を引き出すようなワークショップや出会いの場を作っていけたらと思っています。そのためにはお互いが行き来するハードルを下げたい。大島は首都圏から近いので、環境は整っているはずだし、需要もあるはず。潜在的な可能性は大きいと思っています。

吉本さん:生まれ育った波浮港でゲストハウスや商店を営んでいて感じることなんですが、自分みたいな中途半端な人間でもなんとなくカタチになってるでしょ!?ってあえてプロセスを見せていくことで周りの人が「こんな感じでいいんだ!」と感じてくれるのが大切かなと思っています。実際、触発されてはじめている仲間も増えています。これが例えば非の打ちどころのないカリスマ的な人だったら…、今のような動きは難しかっただろうなと思いますね。

青山さん:生き方が探究的な人が波浮に集まっていますよね。そんな中で吉本君は刺激を生み出した人だと思っています。つくっていく過程をオープンにしていることが大きいですよね。普通は過程は極力見せずに最後に出来上がったものをお披露目したくなるけど、それが吉本君にはない。つくっていく過程の必死に踏ん張っているところとかは極力見せたくない、うまくいかないことも多々あるわけだし。でも、そこを全部見せてくれるから一部始終知ることができる。それが学びに繋がっているし、自分も現実的にできるのでは、というマインドにつながる。全てを決めずに過程の中に余白がたくさんあって、その余白の中で遊びながら完成に近づける作業はとても探究的だしワクワクするものだと思いますね。そして、今回のイベントもそうだけど、とりあえずやってしまう、というマインドは地域に必要なことなのではないかと思いました。

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