「島民の、島民による、島民のためのドローン事業」を目指して
2025年6月。式根島と新島の空に、エアロセンス製のVTOL型ドローン「エアロボウイング」が飛び立ちました。開発したのは、国産ドローンメーカー・エアロセンス。
力強く空を滑空するその姿に、子どもたちは目を輝かせ、集まった住民たちからは驚きと歓声が上がりました。まるでSF映画のワンシーンのような光景が、自分たちの暮らす島の上空で現実になった瞬間でした。
このプロジェクトの最も大きな特徴は、ドローンを操縦するのが東京から派遣された技術者ではなく、「島の住人たち」であるという点にあります。
「外部の企業が実験して終わりでは、島には何も残らない」
そう語るのは、新島村商工会の下井 勝博さんと、エアロセンスの嶋田 悟さん。
ふたりが目指しているのは、単なる実証実験ではなく、自分たちの手による“社会実装”です。
離島の暮らしに、ドローンは何をもたらすのか。
そして、「一緒にやる」という姿勢は、島の未来にどんな変化を生むのか。
「島民による、島民のためのVTOL」を掲げるふたりの挑戦を取材しました。

「実験」ではなく「事業」にする
—— いま、式根島・新島ではどのような取り組みが進んでいるのでしょうか。
下井(式根島):今はもう「実験」ではなく、「実装」に向かっています。僕ら島民自身がドローンのライセンスを取得し、島の人間だけで飛ばせる体制を整えているところです。
航空会社さんと組んで物流の実証ができるように話を進めたり、港湾局に対して「港の点検業務や緊急時の現場対応を島側の体制で請け負います」と営業をかけたりもしています。

嶋田(エアロセンス):私たちが目指しているのは、「島民の、島民による、島民のためのVTOL」です。
その島に暮らす人が、この技術を島のために使う。それが理想だと感じています。
いまの式根島では、それに限りなく近い状態が生まれつつあります。
—— 昨年6月の飛行実験では、初めてVTOLを目にした方も多かったのではないでしょうか。島の方の反応はいかがでしたか?
下井:僕が小型ドローンを飛ばしたときも驚かれましたが、今回は大きさがまったく違います。巨大な機体が飛ぶのを見て、子どもたちの目が本当に輝いていました。
「自分たちの島ですごいことが起きている」という感動があったと思います。
しかも、それが東京の企業による実験ではなく、国産メーカーの機体を「自分たちの島で、島民が飛ばせるようになる」。そこに島民としての誇りや面白さを感じてもらえたのではないでしょうか。
—— なぜ、外部企業の遠隔運用ではなく、「島民による運用」にこだわるのでしょうか。
嶋田:以前、公的機関がドローンポート(自動離発着の格納庫)を設置し、外部から遠隔操作で飛ばす計画がありました。でも、私ははっきり言ったんです。「それじゃあ、島の人に1円もお金が落ちないでしょう」と。
潮風の強い環境で機体を置きっぱなしにすれば、いずれ劣化します。しかも外部運用では、島に雇用も技術も残りません。だから今回は、島の人が運用主体になる形にこだわりました。
下井:そうなんです。補助金頼みの「実験」で終わらせない。きちんと島の「事業」にして、雇用を生むところまでやる。そこまでいかないと意味がありません。

対話からはじまった関係性
—— お二人の出会いは『TOKYO ISLANDHOOD with STARTUPS』(※1)でしたよね。
下井:今回は、事務局に「島側と一緒にできる事業者を選びたいから、審査に入れてください」と直談判し、オブザーバーとして参加しました。
応募の段階からエアロセンスさんに期待していて、審査会で提案を聞いたとき、「これは一緒にやりたい」と感じましたね。
嶋田:私たちにとっても、とてもありがたいプログラムでした。いきなりビジネスの話をするのではなく、旅費等の支援を受けながら現地へ行き、事務局を通じて下井さんのようなキーマンと顔を合わせ、信頼関係をベースに島に入っていくことができるので、とてもやりやすかったです。
(※1 )東京の島々を舞台に、魅力向上や地域課題の解決に向け、スタートアップや個人事業主等による島しょエリアでのビジネス展開を支援するプログラム。
—— このプロジェクトを通じて島と関わる上で、考えや心境の変化などありましたか?
嶋田:あらためて気づかされたのは、「事業」というものは、誰かのためにやるものだということです。誰かの役に立っていなければ、そもそも事業として成り立たないし、意味もない。
TOKYO ISLANDHOODを通じて島の皆さんと向き合い、対話を重ねる中で、その原点を再確認しました。

—— お二人のやり取りを見ていると、長年の相棒のような空気感がありますね。
下井:僕は昔から、人がやっていないことをやりたいんです。人の真似をしても面白くないでしょう?だから理解されないこともあります。
かつて島のトップに「宇宙人だ」と言われたこともありますよ(笑)。
でも、それでいいと思っているんです。嶋田さんは、それを面白がってくれた。
嶋田:下井さんは「進取の気性(しんしゅのきしょう)」という言葉がぴったりだと思います。
古い習慣にとらわれず、意欲的に新しいことや困難な課題に果敢に挑戦することを意味する言葉ですが、まさにそれを体現されている方。「できない」ではなく、「どうやったらできるか」。その姿勢に強く共感しています。

新島・式根島モデルを全国へ
—— 最後に、これからの展望を教えてください。
下井:まずは式根島・新島で確立したこのモデルを、利島や神津島など他の島々へ広げていきたいですね。
それと、エアロセンスさんが開発中の風に強い次世代機。その飛行実験を早く式根島でやりたいです。
嶋田:我々メーカーとしては、今出来上がりつつある「新島・式根島モデル」を、下井さんと一緒に伊豆諸島全域へ、そしてゆくゆくは全国の離島へ広げていきたいですね。
下井:次世代機が実装できれば、式根島・新島から下田や大島、三宅島まで物流をつなぐことも可能になります。 かつては絵空事だと思われていた未来が、もうすぐそこまで来ていますから。これからもガンガンいきますよ。
私たちが惹かれたのは、ドローンという技術そのものよりも、島が運用主体になるところまでを“最初から”描いている点です。外部の企業が実験をして去るのではなく、島の人がライセンスを取り、島の人の手で飛ばし、島の仕事として回していく。そのプロセスにこそ、暮らしを変えていく力があります。
実験で終わらず、雇用と技術、そして「一緒にやる」関係性を島に残していく。こうした積み重ねが、島の未来を更新するための確かな方法論になっていくと感じています。新島・式根島で立ち上がりつつあるこのモデルが、島ごとの条件や文化に合わせて編み直され、次の島へと手渡されていくことを期待しています。
TOKYO ISLANDHOOD DAY 2026
東京の島々で育った挑戦のプロセスと手触りを、島の関係者と採択事業者の声でひらく一日。島とスタートアップの出会いが生んだ変化を、トークセッションや成果発表で共有します。
2026.02.26 ( THU ) 13:30 – 17:05
Tokyo Innovation Base(現地 or オンラインのハイブリット開催)
